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ビースト・ファイヤ!! ◆□◆ 01
プロローグ
世の中には、精霊と言われるものが存在する。
彼らは、その素晴らしい力ゆえに、繁栄し、衰退を繰り返す。
そして、そんな彼らと人間との共存は、未だかつて信じられていない事だが、その美しさ、力強さに憧れる人間達によって、今となっても夢見、語られ続けているのである。
伝説。英雄や勇者には、精霊の影がつきものであるのと同じように・・・。
人が精霊に近づこうと研究を始めたのは、あるいは運命だったのかもしれない。
それほど、当然の成り行きだったのである。
そして、人間は、長い時をかけて、とうとう精霊を閉じ込める事のできる『魔封具』という道具を作り出すことに成功した・・・。
しかし、その『魔封具』は、封じる魔力の調整ができず、精霊によっては、封じ込めようとした時に全ての魔力を吸い取られて死んでしまう者もいた。
その数は、とても多かったそうだ。
『魔封具』の力は凄まじかった。人間の、長年の、精霊に対する抑えきれない思慕の念のように。
封じ込めた精霊を再度、呼び出すことは、とても成功率の少ないものだった。
『魔封具』に勝つほどの魔力を持った精霊が、少なかったからだ。
人間は『魔封具』を生み出した。
精霊をこの手に捕縛することが、可能になった。
だが、その為に、封じ込める時に犠牲になった精霊は、数知れない。
『魔封具』に耐えうる魔力を持った、そして、封じられている強力な力を秘めた精霊を、敬意を込めて、『魔人』と呼ぶようになった。
そして、その名は人間達の間で、最強の精霊の名として、轟くことになったのだった・・・。
第1話 不幸の始まり
「それじゃあ、後は任せたよ。おおいに実験に励んでくれ」
「はい」
「セイロ君、君には期待しているからね。いい結果を待っているよ」
「・・・頑張りますっ!!」
そう言って師である先生が、いつもより機嫌良く実験室を後にした。
「よーし、やるか!!」
セイロは気合を入れて机に向かった。
広い実験台には、専門の実験器具が所狭しと並んでいる。不思議な光りの石やら、色とりどりの液体の詰まった小瓶やらが印象的だ。
「・・・ん?」
昨日の続きをしようとしたら、どこか見覚えのない、鮮やかな赤の小瓶が机の上に置いてあるの
に気づいた。
なんだろう。
よくわからなかったが、自分には関係ないと思い、セイロはそれを無視することに決めた。
あんな小瓶よりも、実験、実験・・・。
「さて、と・・・」
今からは待ちに待った単独実験だ。
この学院に入るまでに、どれほど猛烈に勉強したことか。
入ってからは、ひたすら夢の実現目指して、周りのライバルを蹴落とす勢いで勉強し、そして、ついに手に入れた助手見習いの地位・・・!!
長かった・・・実に長かった・・・!!
毎日毎日、死ぬ思いで勉強して、やっと器具に触らせてくれるようになった。器具が高価だからと厳重すぎるのである・・・!!
そして、やっと自由に扱わしてくれるようになったのは、つい先日のことである。
しかも、今日は先生の都合で、初めての個人実験なのだ。
嬉しい・・・嬉しすぎる・・・!!
貧乏で、ひもじさに泣いた日々・・・。
それも、もはや過去のこと。
この実験が成功すれば・・・これで力を認められれば・・・!!
晴れて研究者の仲間入りである。
そうして、夢にまで見た、実験に実験に実験の日々を送れる・・・!!
「くぅぅ・・・!! よし、さっそく始めよう・・・。まずは、銀の結晶と青の水を混ぜて・・・っと」
銀の結晶!!
普通なら高価過ぎて買えない、いや、扱えない憧れの一品!!
それを惜し気もなく青い液体で溶かしていく。
「それから、赤の・・・朱金の精製粉を振りかける・・・と、あれ?」
振ろうにも、瓶からは一握りも出てこない。
「おかしいなぁ・・・。いつの間に、無くなったんだ・・・?」
ムキになって振り続けてみたけど、パラパラと乾いた音を立てて、全部合わせても1グラムにも満たないだろう量が、微かに落ちてくるばかりである。
・・・せっかくの機会なのに。
なんてついてないんだ。最悪だ。
「・・・ん? 待てよ、そういえば・・・」
ふと、頭に赤い小瓶がよぎる。
そうだ、さっき見覚えのない赤い小瓶を見なかったか?
あれはもしや・・・。
「何だ、無くなったのに気づいて、先生が新しいの、用意していてくれたんだな・・・」
ほっとひと息つく。
なんて、良い先生だろうか。
安堵に胸を撫で下ろす。
こんなに気の利く人とは、正直思ってなかったが。
認識を改めないとな・・・。
小瓶を手に取る。
「・・・へえ。今度のはかなりイイモノみたいだな。なかなか凝った作りだし・・・。
如何にも高級品っぽいし・・・こんな良品が使えるなんて・・・、感激だ・・・っっ!!」
じっくりと眺め回した後、その蓋をそっと開けようとした。
きゅっ・・・!!
が、予想に反してその蓋は開かなかった・・・。
「か、固い・・・!?」
なんでこんない固いんだ? 高級品っていうのは、こういうものなのか? それとも新品だから・・・!?
「ふん・・・!!」
セイロは思いっきり力を入れたが、全くビクともしなかった。
彼は誰が見ても、学者肌で頭脳派だが、何も貧弱ではない。
「んぎぎ・・・!!」
「ぐぐぐ・・・!!」
「んんん〜〜〜〜っ!?」
開かない。
「・・・はぁ。・・・はぁ。なんで、こんなに固いんだよ・・・!?」
セイロは息を乱しながら、苛立ちに任せて机を叩いた。
すると、衝撃で手が滑って小瓶に当たり・・・。
赤い小瓶はキラキラと美しい軌跡を描きながら、空中を舞い・・・。
カチャ。
と、何故か、そこにタイミング悪く戻ってくる先生。
「あ〜あ。この私としたことが、一番大切なものを忘れるなんて・・・」
のん気にぶつぶつ呟いていた先生の頭上を超えて、小さな赤い小瓶は、綺麗な弧を描いて、ゆっくりと床に・・・当然のことながら、激突した。
ガッシャアアァァンッ・・・・・・!!
綺麗な音を立てて、その小瓶は、いとも簡単に割れてしまったのだ。
「あ・・・」
「ん・・・?」
二人の目の前で、美しい小瓶は、無残にも砕け散ってしまっている。もう粉々で元に戻りそうにない。
・・・何故か、蓋の部分のみが、傷ひとつない完璧な姿で残っていたが・・・。
「せ、先生・・・?」
こんな高級品を、しかも未使用で割ってしまうだなんて・・・!!
悔やんでも悔やみきれない。
しかし、今問題なのは、この先生に現場を見られた、という事だ。
弁償しろ、とか、責任とって辞めろ、とか言われたら、どうしよう・・・?
それは困る。絶対に嫌だ。
「・・・・・・ああ」
先生は茫然としたように嘆息して呟いた。
「・・・なんてことだ・・・・・・」
目の焦点が合ってないような気がするのが、非常に怖い。
「あ、あの・・・。手が滑ってしまって・・・落としてしまったんです・・・。すみません・・・!!」
「・・・あぁ」
「それで、あの、これは事故という訳でして・・・。
本当に残念なことなんですが・・・偶然にも、運が悪く・・・ですね・・・」
「・・・」
「私としましても・・・本当に残念で仕方がないと・・・思っておりますが・・・」
「・・・」
「・・・あの、先生?」
返事をしなくなった先生を、今まで怖くて逸らしていた目でちらりと見た。
すると、時が止まったかのような、瞬きひとつしない無反応な先生がいた。
その姿にほんのり危険を感じて、セイロは恐る恐る窺がい見た。
「・・・」
口を大きくあんぐりと開いたままの状態で、セイロの尊敬する若き恩師とも言える先生は、驚愕の表情で固まっていた。
「・・・先生?」
彼なりの冗談かもしれない。そんな限りなくゼロに近い、可能性の薄い案に賭けてみた。
引きつってはいるが、笑みらしいものを浮かべると、可能な限り楽しそうな顔をして呼びかけてみた。
「・・・もしもし?」
確認。・・・そして、無反応。
嫌な感じに予想通りで、セイロは、何でこんな時ばかり・・・!! と悔しくなった。
そうだ。もしかしたら、先生はショックのあまり立ったまま気絶しているのかもしれない。
そう考えたら、少しだけ心が軽くなった。
・・・とは言え、これからどうすればいいのだろうっ!?
回復の兆しの見えない先生の姿に、セイロはわずかに焦り始めた。
(このまま動かなかったら、俺の所為!? 俺の所為!? 俺の所為・・・っっ!?)
密かに心の中で大混乱していたセイロは、ギリギリの理性で、どうにかこの状況を脱しようと試みた。
その為、周りにまで気が回ってなかった。
「ねぇ〜え、ちょっと、そこのあ・な・た」
至近距離から、妙に鼻に掛かった声がする。
しかし、それは可愛らしい少女の甘い声ではなく、やや低めの、猛々しい男の中の男・・・を連想させるドスの利いた恐ろしい声だった。
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